温見峠
通行止めを言い渡されたケンユーは
先程まで、はしゃいで北上してきた道を
引き返しながら一休さんのポクポクタイム。
一つ浮かんだ案が、徳山ダムよりも少し
南にある横山ダムがあり、そこからなら
西へ向けて抜ける道がある。
滋賀県木之本へ抜ける道である。
木之本から北上すれば再び、
福井県敦賀に入ることは造作もない。
しかし今回のライドの最大のモチベが
「滋賀に一歩も足を踏み入れない
ビワイチがしたい!」
なのである。ここをショートカットしたら
その目標は完全に破綻する。
帰宅してから真っ暗な部屋の中で
三角座りして今回のビワイチを慰めてる
自分を想像してケンユーは首を振った。
「嫌や!まだもう少し足掻きたい!」
ケンユーは地図を見て、なんせ別の道を
探すと、東に抜ける小さな道を見つける。
「どこかに抜けてくれたらそんでいい!」
ケンユーは東へと走り出す。
路面は荒れ気味だが舗装路である。
峠なので登りになるがしんどさよりも
どこかに抜けてくれ!の不安のが大きい。
向こうから対向車の車が来るだけで
「やった!どこかには抜けるんや!」
と見知らぬ山で安堵感ぱねぇである。
小さめの峠(おそらく馬坂峠)を無事に
越えて集落に辿りついた。
ここで地図を見る。
岐阜県から福井県に抜けるには
ここから60km先であった。
しかもこのルートの形状を見るに
これ、どう見てもヒルクライム😭
これから見知らぬ峠を越えて60km走ることになる。
すでに時間は15時を過ぎていた。
悩んでる暇はない。少しでも明るい間に
抜けないと知らない山を
漆黒で越えるのは危険すぎる。
ケンユーは走りだした。
相変わらず人の気配がない。
ローディーどころか住民も居ない。
孤独を抱きしめながら走っていると
待ってたのは地図にあったヒルクライム。
終わりの分からないヒルクライムの開始。
まず勾配の強さよりもここに棲みつく
虫のサイズの大きさがしゅごい。
下界とは明らかに違うサイズの虫が
ずっとケンユーに付きまとう。
突き放したいがお山なので時速5km。
だんだん彼の自転車全体を覆うように
虫が集まってくる(イメージ)。
虫除けスプレーするも虫が鼻で
笑ってるのが見える(イメージ)
刺され放題の痒みとヒルクライムの
しんどさを残り少ない補給食で紛らす。
次に彼を出迎えてくれた景色がこれ
後で知ったが、これが有名な「洗い越し」
もはや引き返すとか無理ゲーなので
チャリを担いで渡るしかない。
この先に通行止めがあったら
本当にゲームオーバーやな・・
痒さと暑さと不安と空腹のちゃんぽんで
ケンユーの精神は蝕まれていき
ワクワクではなく、恐怖が支配し出した頃に
ようやく峠の終わりが見えた。
福井県大野市の標識を見て吠えて喜んだ。
振り向くと長くて怖い岐阜県本巣市の標識
この峠、温見峠と石碑にあった。
この名前、永遠に忘れはしないだろう。
一旦、安堵して下山しだしたが
降りても降りても街に辿り着かない。
何より、とっくに補給が底をついてるのに
自販機が一つもない。徳山ダムカレーを
食べてからもう5時間は経過していた。
日が暮れてきた中、ひたすら街を目指す。
もはや暗闇が辺りを支配した20時過ぎに
ケンユーは福井県大野市の市街地に着陸。
ここは過去の600kmブルベの際に
チェックポイントになったとこだ!
見たことある景色に触れて力が抜ける。
8時間ぶりに見たコンビニで爆食い。
満たされるのは空腹よりも安堵感。
「これでまだビワイチの続きができる!」
〜つづく〜