crossorigin="anonymous"> アルティメットビワイチ⑤ - ケンユーのロードバイク日記

ロードバイク

アルティメットビワイチ⑤

白いガウンの男

空腹を満たしたケンユーだが

時間はもう22時を過ぎていた。

ケンユーは宿泊を決めた。

疲れというよりこれ以上、暗闇の未知の

山を走ることへの恐怖がその要因だ。

大野市から福井駅まで走って

そこでビジホを探すことにした。

相変わらず福井県の恐竜推しは潔い。

ホテルの予約どころか電話での問い合わせも

していないので、23時過ぎにヘルメット

したサイジャ着たオジサンが汗だくで

「部屋空いてますか?」攻撃である。

私がホテル側なら空いてても断るキモさ。

ルートイン❌、マンテンホテル❌、

ホテルエコノも❌であった。

次に突入した東横インで

「キモいオジサン1名宿泊空いてますか?」

と聞くとホテルのお姉さんが

「あいにく本日はまんし・・」

まで話したところ、その横のお姉さんが

電話しながらあからさまにケンユーを

視線の先に置いて

「今夜の宿泊をキャンセルですね?」

と聞こえるように話し出した。

どうやら電話の向こうにキャンセル野郎が

いてくれるようだ。これは受けるしかない。

ケンユーは0時に宿が取れたのである。

しかし元々、宿泊予定などなく夏だから

「その辺で転がって寝たらいいや」

くらいの詳細な計画で走り出したので

着替えがない。しかし眠りたいというよりは

このかきたおした汗を流して

この異臭騒ぎが起きそうなサイジャ一式を

過去の辛い思い出と共に洗いたい!

ケンユーはカウンター脇にある

備え付けのガウンに目が留まった。

「そっか!これに着替えてその間に

サイジャとか洗ったらいいやん♪」

彼は部屋に戻り白いガウンを纏い

生ゴミ臭のするサイジャをもって

1階にある洗濯機に掘り込んだ。

洗濯終わるまで待てないので部屋へ

戻ろうとエレベーターに乗った。

すると彼の後に若い女子二人組が

乗ってきた。

ケンユーは神に祈った。

「どうか私の中に棲む悪魔が

目を覚ましませんように」

彼は白いガウンを纏っているが

その下は真っ裸である。

もし彼が彼女たちの前に立ちはだかり

「バッ!」としてしまったらどうしよう

ケンユーはこれまでとまた一味違う

種類の汗をかきだした。

今回のライドのDNFの理由が

体調不良でもなくメカトラでもなく

公然猥褻罪だったらどうしよう

ケンユーは密室で恐怖に震えていた。

部屋のある2階までが50階までかの

ように長く感じた。

上で待つのは天国か地獄か・・

恐怖で呼吸の仕方を忘れたケンユーの

顔がチアノーゼ(酸素欠乏症)で

青白く色づき出した時、

ようやく2階の扉が開いた。

どうにか彼はガウンをおっぴろげることなく

エレベーターを降りることに成功した。

彼は神に感謝した。彼の中に棲む

悪魔はまだ目を覚ますことはなかった。

まだ期が熟してないらしい・・

彼はライドよりも疲弊した身体を

引きずり部屋に戻り、カクテルグラスに

入ったファンタグレープを

回しながら福井駅の夜景を眺めて呟いた。

「ビワイチか・・・」

疲れ果てた身体を睡魔が支配していく

〜つづく〜

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