crossorigin="anonymous"> アルティメットビワイチ⑦ - ケンユーのロードバイク日記

ロードバイク

アルティメットビワイチ⑦

ダンシングオールナイト

美山で現実逃避してるケンユーだが

ようやく我に帰る。ビワイチ中だった。

ひたすら南下して京北を抜けて

高尾から嵐山に辿り着く。

ここから真っ直ぐ東に向いて走れたら

30kmも走れば帰宅なんだけどなぁ〜

てな妄想するもここまできて

ショートカットしたらこれまでの

苦労が浮かばれないので桂川CRを

ひたすら走る。もはや西陽を浴びながら

さくらであい館に到着。ここらで

ケンユーは欠乏症を自覚した。

酸素?いや呼吸はしっかりできている。

補給?いやコンビニでしこたま食べた。

ではいったい、何が欠乏したのか・・・

「会話」である。

彼がスタートしてからもはや30時間

以上が経過している。

その間、彼は基本ボッチ走なので

誰とも話をしていない。

美山の道の駅で話しかけてくれた方と

少し話した程度である。

彼の人生でこんなシーンはなかった。

さくらであい館なんだから誰かと

出会えてもいいのに・・・

そんな思いは雨雲が連れ去っていった。

そうである。日が暮れてきた御幸橋は

雨雲に覆われていたのである。

ケンユーは覚悟した。

「夜の雨の大正池を一人で登るの俺?」

誰も返事してくれるわけがない。

孤独なヒルクライムのスタートである。

登りだした頃にはすでに暗い。

さら和束に入ると、暗いを越えて闇である。

街灯のない夜の山、雨足が強い。

こんなヒルクライム、過去にない。

雨のヒルクライムくらい何度もあったが

知ってる山を漆黒で濡れながら

400km走ってから登ったことはなかった。

まず全く前が見えない。

過去に登った経験があるからようやく

「確かこの後は右に折れていくよな?」

てな具合である。

雨音で聴覚も奪われていく。

視覚と聴覚が失われてもはや嗅覚で

走ってるかのような感覚で登り続ける。

ようやく登り詰めた景色がこれである。

雨で滑らないように注意深くダウンヒルして

和束のLAWSONで休息。

ここから家までならわりかし近いのだが

そうは行かない(誰やこんなコース考えたの)

滋賀に入れないのである。

和束からさらに三重県を目指す。

まだ60kmある。ついにケンユーは

疲れを自覚してしまった。

夜の雨の大正池でメンタルが疲弊した。

乗り越えた安堵感が疲れを連れてきた。

たかだか60kmを「まだ60kmもある」

と思ってしまっているのである。

しかも山城を抜ける道が孤独そのもの。

引き続き、夜の雨の中、走り続ける。

この標識を見た瞬間は嬉しかった。

ようやく、ようやく三重県に帰ってきた。

しかしこの辺りでケンユーのお尻が

終わりを告げた。痛すぎるのである。

もうサドルの上にお尻を置けない。

置けば暗闇に彼の虚しい叫びが響く。

彼はやむをえずダンシングで走り出す。

これぞ「ダンシングオールナイト」だ。

もはや もんた&ブラザーズ ですら

歌わないであろう哀しい唄が静寂に響く。

暗闇の奥に伊賀上野城を見つける。

ビワイチ中に岐阜城と大野城と

伊賀上野城を見かけた人が

これまで何人いたのだろうか?

そんなこと考えながらようやく

伊賀ドライブインまで辿り着いた。

残り15km程度である。

しかしである。なんとここで

久しく忘れていた通行止め攻撃である。

名阪国道を走ればなんてことないのに

名阪国道は車しか走れない。自転車が

走れる旧道が通行止めなのである。

今から遠回りルートは遠すぎる。

そもそももう夜22時を越えている。

ケンユーは雨の中、考えた。

一休さんのポクポクタイムである。

彼はついにDNFを決断した。

ここは柘植駅の近く。

そこから電車で関駅まで向かう。

彼がスタート地点に選んだ関宿は

関駅のすぐそばなのである。

彼は自転車を駅に置いて

「すぐ迎えにくるから少し待っててな」

と告げて電車の飛び乗った。

どっち向きの電車か分からずに

飛び乗ったので他の乗客に聞いた。

「これ、関駅に行く方ですか?」

聞かれたサラリーマンはまるで

雨の夜に突然、ヘルメット姿の

ずぶ濡れ野郎に進行方向を聞かれた

みたいな顔をしていた。

「あ、はい」見事にそっけない返事。

向かう方向は正解だった。

電車の窓を雨が強く叩いている。

「この雨で夜にあのお尻で走るのは危険」

ケンユーは自分を納得させようと奮闘した。

彼のことだ、中々納得してくれないのでは?

と危惧したが彼はすんなり受諾していた。

とっくに彼の心は折れていたのである。

関駅に辿り着いた。

車に乗り込んだ彼はすぐに名阪国道を

走って、今電車で来た道を引き返す。

柘植駅に戻り待っててくれた

anchorに声をかける。

「お待たせ!ありがとう!お前のおかげで

最高のビワイチでけた!さぁ帰ろう!」

ケンユーは無事に相棒と対面できた。

思えばこの子が丸二日間、見知らぬ山も

雨の中も頑張ってくれたから帰ってこれた♪

メカトラは何一つなかった。

残り15kmを電車でショートカットしたが

当初の距離を大幅に超える

滋賀に一歩も足を踏み入れない

ビワイチの完成である。

色んな人に助けてもらったし

通行止め始め、無計画からくる

様々な困難も楽しく乗り越えた。

この達成感、疲労感、安堵感、

その全てがアルティメットであった。

走行距離が543km

獲得標高が6831m

走行時間が24時間57分

いやぁ、おもろかった!

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