7人だよ全員認定
雨が止んでくれたと7人は喜んで走り出す。
しかし安心するとやってくるのがアイツだ。
睡魔 である。来るのはいいがせめて
「睡魔せん」くらい言ってほしい。
まだまだ三重県を北上しているが
すでに夜が更けた。
もしくは余が老けた。
にしても美しい夕暮れである。
ブルベって距離長いから
朝日から夕陽まで眺められるのも特徴。
夜になり反射ベストが主張を強める。
そして、このコースのラスボスである
鈴鹿峠が近づいてきた。正直、
そこまで大きな峠ではないが
250km走ってからの夜の峠は
十分に強敵に思えた。ここで健脚組2名が
飛び出した。あっという間に二人は
闇に消えていく。残された5人は
あくまで自分のペースで登る。
登り終えると滋賀県である。
滋賀県に入り、土山のコンビニで休憩。
登りでかいた汗が降りで冷えて寒い。
しかも時間は22時となり気温も低い。
ここで寒さを凌ごうとコンビニ入ったあと
誰も出てこようとしない
ケンユーは一人、店外で皆を待ちながら
綺麗な月を眺めていた。
いつまで経っても出てこない6名を
呼び出して再スタート。
ここまで7人は揃って走れていた。
ケンユーとしてはこれだけの人数で
走り続けるのは初めて。
30kmなら脚力が異なってもペースを
合わせることはできるだろう。
しかし300kmである。遅い人は
無理してたらついていけなくなるし
速い人は我慢できなくなるはず。
だからケンユーもある程度の距離からは
分裂するのを予想していた。
しかしここまでみんなで揃って走れている。
早い二人が鈴鹿峠のような山岳地帯で
もがいて疲弊した後、うまくペースを
合わせてくれている。
このままみんなでゴールできればいいな
と考えだした時に再びヤツがやってきた。
雨 である。まだ降るんかいな。
乾きかけたサイジャとシューズが
みるみる濡れていく。寒さと眠気が
手を繋いで攻めてくる。
走ってはいるが意識が薄くなっていく。
ぼんやり走るこの感覚は
ブルベの度に味わうことになる。
この感覚の時には速度は出ない。
半分寝てる感覚で、これが悟空なら
「オラ力(りき)がでねぇ」と言うだろう。
寒いのに眠い。この本来、
同居しないはずの二つが
同棲してくるのがブルベである。
薄れゆく意識の中でケンユーは
前にぼんやりと見える反射ベストを追う。
みんなが確実にゴールへ近づいていく。
そして23時30分頃、7人全員が
無事にゴールしたのである。
スタートは6時だったので、
もう17時間以上一緒に走ってきた。
それが7人全員が300km認定である。
これは嬉しいブルベは認定があるので
みんなで走って、一人がもう走れなく
なったからといって、みんなでDNF
(リタイア)することを望んではいない。
それをしてしまうと
何より走れなくなった一人が
責任を感じてしまう。だからケンユーは
ブルベの前にみんなに伝えている。
「走れなくなった人がでたら
僕はほっていきます!その代わり
僕が走れなくなったらちゃんと
ほっていってください」
と言うことにしてる。そんな中で
初めて会った人もいるのに
初めて300km走る人もいるのに
7人全員で認定できたのは素晴らしい。
これでシュペールランドヌール取得
までに必要なのは400kmと600kmだ!
〜完〜