crossorigin="anonymous"> サンドイッチ - ケンユーのロードバイク日記

ロードバイク

サンドイッチ

古来より近江の国では、お正月に

琵琶湖を周回することで無病息災を

願う風習が・・・・

ないので、ケンユーは新たに作ろうとして

ビワイチを決行した。

ボッチなのでペースはぬるい。

長浜のセブイレで最初の休憩を取ろうとして

事件は起こった。ケンユーは

カレーチャーハン味のおにぎりと

ミックスサンドを手にして

レジへ向かってこう言った。

「これとセブンカフェのレギュラーサイズ

あ、このおにぎり温めて下さい。

アプリあります。支払いはnanacoで」

「研修中」と名札のついた女学生が

どれから対処していいのかアタフタしてる。

レンジで温めればいいのか、

コーヒーカップを取ればいいのか?

パニクっている。

先輩アルバイトが駆けつけて

「スマホ出していただいてるので

アプリからスキャンして」と

優しく教えてくれる。

「ゆっくりでいいですよ」

彼は今日もジェントルマンだった。

1月5日まではnanacoで支払いすると

5%還元とあり今日までである。

笑顔で支払いを終えて彼は店を出た。

手には外した手袋とサンドイッチと

おにぎりと珈琲を持っている。

レジ袋を購入していないから

手が足りなさげである。

チャリを止めているところまで

あと5mのところで珈琲の上に乗せていた

カレーチャーハン味のおにぎりが落ちた。

拾いたいが手に空きがない。

ひとまずチャリのところまで行き、

サンドイッチ、珈琲、スマホ、

手袋を置いてカレーチャーハンを

拾いにいった刹那の間に、

振り向くとサンドイッチが宙を舞った。

カラスである。ものの5秒の間に

サンドイッチを袋ごと咥えて飛び立った。

ケンユーは産まれて初めて大声で吠えた

「返せ!」

これまで人類がこの星に住み着いて数千年。

それと同じだけ盗難の歴史は続いている。

その数千年の歴史の中で、被害者が

「返せ!」と唸って、盗品が

返ってきたという報告はこの2021年まで

ただの一件もない。それなのに

ケンユーは言語能力の有無も

未知数の鳥類に向かって真顔で吠えた。

そして、声にならない声で

「せめてたまごサンドだけでも・・」

カラスは隣の工場の屋根の上に止まり

相手がこれ以上追って来れるかを

確認している。ケンユーが

振り上げた右腕が力なくゆっくりと

下がっていくのを見届けたカラスは

一礼をして琵琶湖へと飛び立った。

残されたケンユーは心の拠り所を失い、

冷めた珈琲とカレーチャーハン味の

おにぎりの傍で呆然としていた。

どれだけ刻が経っただろうか。

「このままでは終われない!」

彼は立ち上がって再び店内へ入った。

そして先程と全く同じサンドイッチを

手に取り再びレジへと歩んだ。

先程の研修中のアルバイトと先輩

アルバイトが目を合わせて

アイコンタクトしている。

オフト世代の私には丸見えである。

「この人、ついさっきこれとまったく
おんなじサンドイッチ買わはった!」

である。このままでは、ただの

食いしん坊と認識されるので

たまらずケンユーは説明しだした。

「これついさっき買った途端にカラスに

奪われたんです。アニメみたいな

ことが起きました」と。

研修中のアルバイトが聞いてきた。

「どのアニメですか?」

「いや、どれということはないですけど」

ケンユー答えに窮した。

先輩アルバイトがもう辛そうなくらい

笑うのを我慢している。私は再度、

会計を済ますと店を出た。

店の入り口には「nanacoでのお買い上げ

5%還元」の幕が飾られている。

「何が5%や、俺は今、

100%カラスに還元したんや」

ケンユーから紳士の残り香は

完全に消え去っていた。

ケンユーは思考の変換を試みる。

「これは盗られたのではない。

与えたのだ。あのカラスは母親で三匹の

お腹をすかせた子供が待っているのだ。

私のハムサンド、ツナサンド、

たまごサンドを仲良く喧嘩せずに

食べてほしい。栄養が偏らないように

わけわけしてほしい。

悔しくはない。あれは投資だ。
悔しくはない。
悔しくはない。

ケンユーは再びペダルを回し出した。

最近購入したアイウェアから

大粒の涙がこぼれ落ちた。

「なんやねん、あのカレーチャーハン味の

おにぎり、ぬるいだけでなくて、

辛すぎて涙が出るやんけ」

kenyuの負け惜しみは路肩に積もった

雪を溶かして消えていった。

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